草を生かす山地酪濃を貫く、斉藤陽一さん

2000年7月5週号

 

高知県南国市の斉藤陽一さん(愛農高校理事長、愛農会理事、日本草地畜産協会理事)は1968年に、それまで営んできた水田酪農(水田に牧草、畜舎で牛を飼う)を切替え、以来32年間山地酪農を一筋に貫いてこられています。山地酪農は1960年頃植物生態学者楢原博士が提唱した「急崚な山地でも日本シバを使えば、台風の大雨に際しても土砂流亡を防ぎ、表土を保全でき、よい環境を保ち、エサとしても優れた安定な草地を作り、その草地で営む放牧酪農のこと」です。
高知では故岡崎正英氏が、この山地酪農を始め、斉藤さんは「一般の輸入飼料に頼って規模拡大や大量生産をめざす酪農では、やがて輸入のなくなるときがくる」と、山国の日本で展望のある、この山地酪農に取りくまれたのです。遺伝子組換えやポストハーベスト農薬で輸入穀物の問題が大きくなっている現状、自給できる草地酪農を目指したことはまさに先見の明というべきでしょう。

放牧地を背景に、斉藤陽一さん
―斉藤さんの山地酪農―
斉藤さんは温暖多雨の高知の標高150~250mのところにある、30~40度の急傾斜地23haに、日本シバの草地を作り放牧地にされています。伐木、火入れ、道路作り、牧柵、草地整備、シバの定植と大変な苦労をして、今日の日本シバの草地を作り上げられました。しかし、今ではシバの更新の必要もなく、楽々と酪農を行えるようになっているのです。日本シバの高さを5~10cmに管理しておけば、牛は全部草を食べてくれるので、日光がよく当たり、ダニやピロプラズマ病の対策にもなり、結果として牛が自分で草地を管理してくれるのです。

■草地と牛の頭数のバランスが大切■
このような良好な環境を保つためには牛と草地のバランスが大切で、1haに成牛2頭の割合を守っておられます。この放牧地以外に5haの採草地から、干草やサイレージ用の越冬飼料を作られています。ここに、経産牛27頭、育成牛13頭で、年間わずか110tという理想的な低乳量の山地酪農を営んでおられるのです。

■冬期の飼料不足の対策■
当初は、日本シバ以外には、冬期に草が不足するときに近隣のタケノコの皮を活かしたタケノコサイレージを補っていましたが、現在ではこのタケノコが中国産に押されて激減し、わずか冬期の10日分くらいしか入手できなくなっています。そのため若干のふすまと大麦、全酪連の配合飼料を2kg程度/1日当りを使わざるを得なくなっています。これらは残念ながら非遺伝子組換え作物ではありません。現在、それへの切替を行っているところです。
山から流れ出る栄養を含む雨水はふもとにため池を作り、それを山の上へポンプアップをして、有効利用をしています。

■自然分娩■
改良された牛は能力が退化していますので、斉藤さんのところでは自家育成を何代にも育ててきています。当初は山に放牧したままの自然交配でしたが、現在は血が血縁のみにならないよう獣医である息子さんによって人工受精を行うようになられています。分娩は今でも自然分娩で、お産も軽くすむのです。
搾乳するときは、鐘を鳴らしてミルクステーション(搾乳場)に牛を呼び、搾乳後は牛は山に帰っていくのです。その搾乳時以外は牛はいつも山におり、木陰に寝そべったりしているのです。台風のときには成牛が円陣を組み子牛を中に置いて守っています。

■牛の健康を大切に■
斉藤さんの経営は「引き算の経営」をモットーに行なわれています。低乳量、少量生産で搾乳量は少なくとも、経費を極力少なくして所得を確保するというやり方です。牛の健康、長寿を重視し、よく運動させ、結果的に安全な牛乳を作ることができるのです。経済優先ではなく自然の摂理を優先すれば、牛だけでなく、人の生活にもゆとりを得られ、消費者にはすばらしい牛乳が提供されているのです。
通常の搾乳牛はお産を1~3産くらいですが、斉藤さんは実に10産以上と、とっても長く牛を大切に扱われています。いたずらに搾乳量を増やして、牛に無理をさせるようなやり方でないからこそ、実現していることなのです。

―斉藤さんの牛乳はひまわり牛乳(ノンホモ・パスチャライズ・ビン牛乳)の原料に使われています―
オルターで扱っているひまわり牛乳にもちろん斉藤さんの牛乳が使われています。しかしこれだけでは乳量が不足しているため、他の山地酪農と称している牛乳が混ぜられています。しかし、これらの酪農は山地放牧されているとはいえ、斉藤さんのレベルの山地酪農とは言えません。斉藤さん以外の生産者の山地酪農がうまくいっていないのは、どんな牛乳でも一率95円/Lで買い上げるというひまわり乳業の現状があるためです。私達としては、斉藤さんのように努力している生産者の乳価はせめて以前のような120円/Lに戻すべきだと働きを強めることにしました。やっと生きていける価格ではなく、他の山地酪農をめざす生産者もやる気のする価格システムに改めていただきたいと考えています。
ひまわり乳業には斉藤さん以外の生産者のレベルアップや、殺菌条件の改善(現行の65℃30分を、学問的に正しい63℃30分へ)などの問題点が残されています。

~~~斉藤さんの廃牛を食べませんか~~~
斉藤さんのところで、10産以上のお産をした牛の牛肉があります。
 肉になるその日まで、山や牧場をかけ回り、たっぷり草を食べて育った健康な牛の肉です。しまった肉質は脂肪分が少なく、あざやかな赤身はちょっぴり野性の味がしま  す。少し堅めですが、煮込み用など料理に工夫してみて下さい。運動させず、濃厚飼料 を多く与え、薬で病気を抑え、ひたすら肉用に太らされた不健康な牛の肉ではありませ ん。
※飼料添加物・発色剤・病気牛等の不安は全くありません。
お届けは冷凍扱いになります。

◎一般の酪農の問題◎
草地酪農、放牧などではなく、不健康な舎飼いで、草も満足に与えられない。ポストハーベスト農薬、遺伝子組換えのある輸入穀物を主体に、牛の体に無理をさせ、少しでも多収量をめざしています。そのため、搾乳期間も短く、牛乳も農薬や飼料添加物、動物医薬品の汚染が心配なものとなっています。乳量を多くするために、注射している牛成長ホルモン(遺伝子組換え技術)の影響で、最近、その牛乳に発ガン性があることも判明しています。また、このホルモンは狂牛病発生の原因にもなったものです。

―文責 西川栄郎―

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