プロ並みの味を簡単に家庭で作れる「はかせ鍋」

2003年2月2週号

 

素材の味・香りを大切に そして省エネも
 加熱しすぎて素材の味を逃がさないことは、プロの料理人の鉄則です。1985年に小林寛早稲田大学理学部教授が発明した保温調理器、はかせ鍋は「素材に調味料などの味がよく染み込む」「素材の味が損なわれず、香りも飛ばない」「ガス代も1/3に」という大変優れた鍋で、プロ並の味が家庭で簡単に作れてしまうのです。使い方は、沸騰したら(鍋の周辺が沸騰してくるだけでは不十分で、鍋の真中あたりが沸騰してきたら)、平らな場所へ置き、後は余熱を利用するだけです。
 小林寛工学博士が、はかせ鍋を発明なさったきっかけは温泉たまごでした。奥様の正恵さんがたまごをカップラーメンの発泡スチロール製容器に入れ、熱湯を注ぐという方法を考えられたのでした。どんな形、大きさのたまごでも、同じ半熟状に仕上げるために、今度は小林博士が研究を重ねられ、温泉たまご器「コロンブス」を発明なさいました。煮ないで作る、半熟煮はとてもおいしい。消化もよい。その秘密を解くために、おでんの材料を鍋に入れて沸騰させ、鍋ごと発泡スチロールの箱の中で保温する実験をなさいました。これが成功への最初のステップとなりました。こうして、周りに煙突の役割を果たすスカートを付けた現在の形まで試作を重ね、誰でもが材料の味を活かした調理ができる「はかせ鍋」が完成したのでした。

小林寛博士の「はかせ鍋」
製造メーカー
 オルターカタログ1999年3月第2週(関連ページをご参照ください)でご紹介したエポラス。材質はステンレス製です。

はかせ鍋の構造
 「はかせ鍋」は図のように、ステンレス鍋の周りにステンレス製のスカートが、ワンタッチで着脱できるように取り付けられています。
 ガスで加熱するときは、スカートと鍋のすき間が煙突となるので、普通の鍋より早く煮立ちます。
 火から下ろしてテーブルなどの平らな台に置けば、鍋の底と側面に空気が閉じ込められて熱が逃げるのを防ぎ、保温性が非常によくなります。
 外側のスカートは、周りの冷気が吸い込まれる関係で、下端で65℃以上になりません。そのまま机の上に置いても跡がつかず、大丈夫です。今までの鍋より2割以上早く煮立ち、火から下ろしておけば、2倍以上も保温できます。

はかせ鍋の利点
単なる保温ではなく、ゆっくり冷めていくのがポイントです

①素材への調味料など味の染み込みが極端によい。
 塩分、糖分、アミノ酸などのうまみ成分は、鍋の中がゆっくりと冷めていく時によく染み込むのです。鍋の温度が下がる場合、まず湯から冷め始め、具はまだ暖かい。具から出た水分子の穴を埋めるように、後から味の分子が入り込むからです。急速に冷めると、高分子の味成分は具に染み込む暇がありません。また魔法瓶のように保温が良すぎると、具から水の分子が外に出ません。味が染み込むのには3~4分かけて1℃ずつ下がるのがベストなのです。
はかせ鍋は保温を利用しているので、まさに理想的にこのことを行うのです。ただグツグツ煮るだけでは、素材の風味が損なわれるだけで、おいしい味がつきません。
②過度に沸騰させないから、味や香りが飛ばない。
 香りはおいしさの大切な要素。グツグツ煮て部屋中に香りが漂ってくるのは、材料の香りを無駄に捨てていることになります。必要以上に加熱しないことで、香りを逃しません。通常の料理で、味噌や醤油など香りが命の調味料を最後に加えるのは、この香りを逃さないためです。しかし、保温料理だと長時間沸騰させてブクブクと泡立てませんので、最初から味噌、醤油を入れても香りはしっかり料理に染み込むのです。
③材料に適した時間、温度で調理できます。
 グツグツ煮すぎるのはビタミン、酵素、タンパク質など材料の成分を壊し、うまみを煮出して、まずくしてしまいます。過度に加熱せず、ゆっくり冷めるから、材料が硬く煮しまりません。
④保温を利用するのでガス代も大幅に節約でき、省エネです。
 蒸気が逃げ出さないから、煮物の水も今までの料理法の半分以下を鍋に入れるだけでよい。

 プロの料理人は、豆の含ませ煮などは昔から時間をかけて冷まし、味を染み込ませてきました。そんなプロの技術を、はかせ鍋は簡単に実現してしまうのです。はかせ鍋を使ったおいしい料理はおでん、煮物、温野菜、カレー、シチュー…など多種多様です。簡単においしい料理が作れるので、料理が楽しみになる人が多い、子どもが喜んで料理を食べてくれる、つきっきりで火加減を見る必要がなくなって時間にゆとりができた、などなどもはかせ鍋の功績です。はかせ鍋を使った料理の工夫は無限です。
 オルターでは、おしゃべりクッキングでこの「はかせ鍋」を使ったアイデアいっぱいの料理を定期的に講習する予定ですので、関心のある方はぜひ参加してみて下さい。

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マイライフシリーズ269『はかせ鍋の料理』(グラフ社)は
小林博士の了解を得ないで出版されたもので、
その内容にも誤りが多いため、
参考になさらないで下さいとのことです。
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市販の類似品との違い
 市販している鍋で、はかせ鍋と類似のものは、大手メーカー製品で保温性を高めた鍋があります。しかし、はかせ鍋のように、時間をかけてゆっくり冷めていくような温度勾配が得られませんので、はかせ鍋のようにはおいしく調理できません。単なる保温ではダメで、このゆっくり冷めていくというところが、はかせ鍋の最大のポイントなのです。
 発泡スチロールと一般の鍋を組み合わせたものは、発泡スチロールから有害な成分や嫌な臭いが出ますので、やめたほうがよいのです。大手メーカーの保温鍋には、臭いのクレームがあるそうで、はかせ鍋では、連続してもそのような臭いの心配もなく、手入れも簡単です。

(文責:西川栄郎)

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