千年産業の壮大なロマンをもつ「金沢農業」 金沢農業(1)

2003年5月3週号

 

河北潟で取りくむ「自己完結循環型」の有機農業
国内最大規模の有機農家には現代の百姓魂がある

 金沢農業の井村辰二郎さんは、「自己完結循環型農業」を目指して、金沢市の河北潟で有機農業に取組んでおられます。その経営面積は米20ha、有機大豆83ha、有機小麦・大麦83ha、牧草10ha、その他雑穀、野菜、果樹など2.2haとおそらくは国内最大規模の有機農家です。うち60haは昨年までに有機認証を取得なさっています。また、豆腐、味噌、醤油、麦茶、小麦粉など自家栽培の原料を使った農産加工にも精力的に取組んでおられます。
 井村さんの大豆を、オルターでは豆腐の生産者、太子屋(カタログ2001年3月第5週)、尾﨑食品(カタログ1999年11月第2週)、あらいぶきっちん(カタログ2001年6月第2週)や湯葉弘の湯葉(カタログ1999年10月第2週)、末広昆布の昆布豆(カタログ2002年6月第4週)の原料としても使わせていただいています。小麦は金子製麺でうどんの原料になっています。タナカファームさんは鶏糞と井村さんのくず大豆、大麦、小麦などと交換していただいています。
 井村さんは、大学の農学部を卒業した後、一時サラリーマンになり、その後脱サラなさっています。バブル経済の崩壊とともに、多くの産業に
おいて存在自体が矛盾を起こし始めていることを見てとり、農業こそ未来永劫の産業であると考え、「自然回帰」をキーワードに「千年産業」を目指して、環境保全型農業に着手なさいました。
 河北潟干拓地(1390ha)は、もともと米を作る目的で計画された干拓地です。その後、水田事業から畑作に計画を移行したところです。ラムサール条約(湿地保護)に登録されてもおかしくないくらい、野鳥や野生動物の豊かな自然のあるところです。その鳥たちや動物たちと共存する優しい農業をなさっています。畑の土質はメッシュの細かな泥で、雨が降るとぬかるみ、乾くと石のようにゴロゴロします。必ずしも畑に向かないその大地で、農薬や化学肥料を使わず、生態系に優しい豊かな農業に取組んでおられます。
 大豆や小麦には国際価格との価格差や逆ザヤによる価格差があります。そんな国際価格に対して、私たちそれを食べさせていただく側とも協力し合い、敢えて国際競争力をもてるように挑戦していこうという意気込みです。現代で百姓魂というものを求めるなら、ここにまさにそのお手本がいらっしゃるのです。

金沢農業 井村辰二郎さんの有機大豆
品種 エンレイ、フクユタカなど9品種

栽培技術総論
 ①土作りに重点を置き、定期的な土壌調査を実施し、堆肥などの散布による地力増進に努めています。
 ②輪作、多品目、多品種栽培を実施しています。
 ③不耕起栽培や忌避作物など新しい技術の研究、習得に努めています。

栽培
 播種 土をこねず、ミミズも殺さない不耕起栽培を試みています。昨年、ヨーロッパ製の不耕起播種機を導入なさいました。
 除草 畝だけでなく、株間の除草もできるロータリー式の除草機を使っておられます。井村さんの創意工夫で開発されたものです。このような先駆的な努力が、広大な面積での栽培やリーズナブルな価格を可能にしています。収穫近くでは、手による除草も行います。

肥料
 化学肥料は一切使いません。 自家製のエサを食べさせている鶏、羊、ヤギの糞尿を堆肥化したもの、タナカファームの堆肥化した鶏糞も使っています。
 地元、隣県を中心に有機系産業廃棄物の利用。
 自家製の原料での農産加工残渣、おから、米ぬか、酒粕、醤油粕、ふすま、油粕。カキ貝殻、カニ殻など水産業からのもの、間伐材チップ、おがくずなどを使っています。河北潟の堆肥センターより、牛糞堆肥も使っています。有機資材は土の中にすきこんで腐敗など起こさないよう、土の表面において地表発酵技術を実施、研究しています。貝化石は土壌診断により適所に投入。米ぬか、魚粉は大豆の雑草抑制を兼ね、散布しています。堆肥の原料については、追跡可能性を高めるため、仲間や信頼できる人たちのものにさらに切替えていく予定です。

防除
 農薬は一切使いません。
 生態系を検証したり、忌避効果のある植物を利用して、防除技術、おとり作物による防除を試みています。

市販の大豆の問題点
 輸入大豆は、ポストハーベスト農薬、遺伝子組換えが心配です。国産大豆といっても輸入大豆の混入が見つかっており、必ずしも安心できません。生産者、畑の見える大豆の方が、より安心です。国内での通常の慣行栽培では、農薬や化学肥料の汚染も心配です。

(文責:西川栄郎)

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