昔ながらの天然・自生 純国産100%本葛

2009年2月2週号

 

でんぷんの中で本葛が最高級。アトピー食、介護食、ダイエット食、低血糖症・インフルエンザ・風邪対策や、食糧危機・パンデミック対策の備蓄用にも。

●本物の本葛はおいしい上に健康的

 本物の本葛は高級な澱粉(でんぷん)食材で、葛湯、葛きり、葛もちなど昔からたいへんおいしいものとして食べられてきました。葛は山野、ひなたの土手に自生するマメ科のツル性多年性植物で、「クズカズラ」「マクズ」とも呼ばれています。30年~50年生の根を利用するもので、飢饉のおり生命をつなぐ非常食として大変すぐれていたので、葛製造を奨励していた大名もいました。
 食後ゆっくり消化されますので、たいへん腹もちがよく、赤ちゃんの離乳食、アトピー食、病人食(おかゆがだめでも本葛ならよいこともある)、介護食、ダイエット用食材としておすすめです。血糖値の上昇もゆっくりですので「低血糖症」の特効薬です。
 昔から発汗、解熱、血行改善、筋肉痛をほぐす、鎮痙作用、胃腸不良、下痢止めなどの薬効作用があることが知られており、民間薬「葛根湯」として熱性病、感冒、首・背・肩こりに用いられてきました。その薬効主成分はイソフラボン誘導体ですが、近年アセチルコリン様物質の存在も確認され、副交感神経・末梢神経刺激作用、消化器官賦活作用も確認されています。ただし、汗かき体質や胃の弱い虚弱体質には向いていないことがあります。

●姿を消した本物の本葛

 このように本葛はたいへん優れた食材ですが、戦後の洋菓子など食の欧風化の中で日本人の食卓から忘れられていきました。そして安いでんぷんなら何でもよいという風潮のなかで、本葛にどんどん混ぜ物を入れるようになり、細々と利用されている本葛と呼ばれるものも、吉野葛を含めてそのほとんど全てがニセモノになってしまった、と言っても過言ではありません。和菓子職人でさえも本葛がわからなくなり、まず本物が使われることはありません。

●現存する本物の本葛

 九州福岡県朝倉市に本社のある廣久葛本舗の十代目高木久助社長は、鹿児島県大隅半島にある工場で、近隣の約200人の「ほりこさん」と呼ばれる人たちが山から掘り出してくる葛根から、今日なお昔ながらのたいへんな手間と時間をかけた製造技術を駆使して、原料から製品までの一貫生産を行っています。本物の本葛が、ここに現存しているのです。

●賢人によって守られた本葛

 廣久葛は江戸期1819年創業です。筑前秋月黒田藩の藩財政をうるおすものはないかとの肝いりで、酒・ローソク屋をしていた初代が始め、幕府への献上品が話題となって江戸市中で人気を博して、藩財政に貢献したそうです。現在の当主の高木久助さんは十代目となります。
 これまでにも幾度か経営の危機があったそうですが、とくにお父さんの九代目の時代には全国から本葛製造業が姿を消し、廣久葛も例にもれず経営危機に見舞われました。しかし九代目は直売や加工品の開発を工夫されるなどして存続を果たされました。
 九代目は「ほりこさん」をとても大切にされていました。本葛製造には、山の斜面で深さ3mもの穴を掘り、直径20~30cmもの大きな葛根を掘り出す重労働を担う「ほりこさん」はなくてはならないのです。12月~3月の真冬の粗粉作りの期間中、ほりこさんと親交を深めるために毎日のように酒を酌み交わしておられましたが、惜しくも67才で亡くなられました。
 その九代目の高い志を継がれた十代目は、子供の頃から「本葛作りは楽しいもの」と感じ、伝統や歴史を切り捨てていく時代にあって本物の本葛作りの誇りと使命感を持っておられます。大隅半島周辺には、ほりこさんがまだまだ健在です。本葛は過疎の村の貴重な現金収入です。ほりこさんは「山に宝が埋まっている」とも話されます。
 この素晴らしい本葛の文化を守れるか否かは、まさに私たち消費者が本物の本葛を理解できるかどうかにかかっています。廣久葛本舗の本葛は、カタログ2005年9月2週でご紹介した金正食品の葛切りや、カタログ2008年12月4週号でご紹介したたまだけんのお菓子に使われています。

廣久葛本舗の「天然・自生」「純国産」「100%」本葛
●原料…天然寒根葛の根

大隅半島近在の鹿児島県、宮崎県で約200人の「ほりこさん」が掘り出してくる寒根葛(かんねかずら)の根。野山に自生した30~50年のものを採取。霧で葉が枯れて養分が根に蓄積される冬期に採集。 葛はツル性なので、山持ちには葛採りは歓迎されるのです。

●製造工程

大隅半島の廣久葛本舗の工場は、本葛のさらしに使う水に恵まれ、気温の低い山間で雑菌の繁殖が抑制的で、本葛製造に向いています。

①洗浄…小さいものはこそいだり洗浄機で土を落としたりする。大きいものは根についた泥を高圧清浄機で落とし、適当な大きさに切断(電動のこぎり)。
②粉砕 …機械で繊維状に砕く
③澱粉抽出…真水をかけ、根に含まれている澱粉を抽出。
④ふるい濾過…澱粉液と繊維カスをメッシュの上でふるいながら分離。ふるい濾過は粗と細を2回。
⑤遠心分離…澱粉液を濃縮。
⑥ふるい濾過仕上げ
⑦澱粉液をタンクで攪拌し、底にカス・どにくを沈澱させる。上部の汁を取り出し、良い澱粉を抜き取る。
⑧遠心分離で濃縮
⑨浮かし取り…真水を入れて澱粉液をタンクで攪拌し、静置して、底にカス・どにくを沈澱させる。上部の汁を取り出し、良い澱粉を抜き出す。
⑩水晒し(寒晒し)・浮かし取り…別の水槽に澱粉を移し、アクや不純物を泡で除く浮かし取りを繰り返す(以上、大隅半島の工場での作業。以下、本社工場での作業)。
⑪精製…水晒ししたものをコンテナで本社工場に運び、泡で不純物を取り、水晒し・浮かし取りを繰り返して精製。
⑫舟入れ…水晒しを終えたものを木箱に厚手の布を敷いた「舟」と呼ばれる容器に入れる。木箱の底には割り竹が張ってあり、水が抜ける仕掛け。
⑬舟上げ…一夜寝かせて水が抜けたころ、紙を敷いた木枠に移し、上から手で叩いて空気を抜いて引き締める。その上に厚手の布を2枚被せ、その上に水分吸収用に葛(乾燥専用に使っている。昔は木灰が使われていた)をのせる。
⑭自然乾燥…水分が抜けて固まったところで木枠から出し、豆腐大に切り、半日ひなた干ししてから2~3ヶ月陰干しする。
⑮熟成…ほぼ半年~1年間熟成。独特のにおいが消え、滑らかな舌ざわりとねばりがよくなる。

本葛澱粉の粒子をこわさない非加熱・自然乾燥、ていねいな作り方です(ただし葛湯製品のみ低温乾燥しています)。化学薬品・食品添加物などはいっさい使用していません。

市販の「本葛」「並葛」の問題点
 伝統産業宣伝の為にパフォーマンス的に行われるごく小規模の本葛製造が一部にありますが、廣久葛本舗工場のある鹿児島の様に「ほりこさん」が健在な地域は他にありません。そういった意味で、吉野葛を名乗っている処を含めて本物は非常に少ないと言っても過言ではありません。
 きっちりとした表示規制がなく野放しの為、本葛を全く含まない、さついまいも澱粉100%のものを「葛粉」「並葛」と呼んだりしています。澱粉の価格は、本葛→さつまいも→じゃがいも→低価格澱粉→増粘多糖類(ソルビトールなど)の順に下がっていきます。これらを混合したものを平気で「本葛」「葛もち」「葛きり」等と呼んでいるのです。安定剤を添加しているものもあります。
 比較的大量生産を行っている葛は製造工程で効率化の為、生石灰水を使っています。その中和の為に硫酸等を使うので、反応して石膏ができており、増量になるだけでなく腎臓障害の心配があります。また、白くする為に漂白剤が使われ、消泡剤も使われています。通常のものはボイラー乾燥されており、保水性・粘り・吸水性・伸び等、全ての面で劣っています。
 なんとか「葛」を扱っている業者も、実態は中国から葛粉を輸入して混ぜ物をして製造しているか、中国産の葛根を持ち込んで大量生産を行っています。中国産の葛粉には混ぜ物の心配もあり、品質が全く信用できません。繊維・異物等が混じっている事もあります。中国からの葛根はポストハーベスト農薬の問題があります。また、運送に時間がかかって糖化が進み赤っぽく変色するので、漂白剤等の使用が問題となります。国内や中国産のものに天然物だけではなく栽培物もあります。東南アジアから輸入した「葛に似た植物」があります。栽培物は野生のものに比べて活性力が低く、薬効に疑問があります。

―文責 西川栄郎(オルター代表)―

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