無殺菌で飲める国内唯一の生乳(特別牛乳)

2009年11月2週号

 

安全なエサと飼い方。酵素・乳酸菌がそのまま活きていて、腸にも優しい本来の乳です。

●自社生乳を加熱・加圧一切せず自然のままで
  北海道中札内村にある想いやりファーム(創業1991年、長谷川竹彦社長)は、28haの牧場に55頭の乳牛(親牛30頭、子牛25頭)を昼夜放牧し、エサは現段階で95%が無農薬・無肥料の牧草、それに地元十勝産のビートパルプ粕を少々補うという極めて健康的な飼い方をしています。
 乳は母親の血液ですので、母親の状態がすべて乳に現れますが、想いやりファームの生乳は牛たちが本当に健康であることから殺菌する必要が全くなく、搾ったそのままをビンに詰めているだけという、日本で唯一生のまま飲める生乳です。

●生乳の良さ
  想いやりファームの乳の中にはカルシウム吸収促進酵素や鉄分の吸収を助け免疫機能を高めるラクトフェリン(233μg/ml)など様々な優れた酵素が含まれています。想いやり生乳はそれらすべての酵素・乳酸菌が活きています。
 また加熱しない自然な乳は、胃でしっかり凝固しゆっくり消化されるため下痢をしません。乳糖不耐症の方でもほとんど問題なく飲めます(一口から試してください)。熱変性も全くなく、消化吸収もスムーズな腸に優しい乳です。牛乳アレルギーの方でも飲めることがありますが、アレルギーの方は念のためパッチテストをしたり、ほんの少しなめてみたりして、くれぐれも慎重に行ってください。「牛乳は飲めないけど想いやり生乳なら飲める」という多くの声が届けられています。
 風味は加熱による焦げ臭が全くなく、後味もすっきりしています。

●国内唯一の無殺菌特別牛乳
  想いやり生乳は種類別特別牛乳です。厚生労働省発布の乳等省令には、特別牛乳を以下のように定義しています。『搾乳した場所で直ちに容器詰めできること、施設の衛生基準や牛乳の成分・菌数をクリアしていることを保健所が認めると、種類別「特別牛乳」と表示できる。保健所の厳しい監視、指導が常時行われる』。
 一般牛乳に比べ特別牛乳の基準は、無脂固形分8.0%以上→8.5%以上、乳脂肪分3.0%以上→3.3%以上、細菌数5万個/ml以下→3万個/ml以下、大腸菌群はどちらも陰性が条件です。特別牛乳は低温殺菌(62~65℃ 30分)または生乳のままとなっています。
 現在、特別牛乳は全国で7社認められており、商品化されているのは4社、無殺菌は想いやりファーム1社のみです。

●何故無殺菌で出荷できるのか
  牛乳中の雑菌は外部から多く混入しますので、衛生的な環境はもちろん必要ですが、むしろ大切なのは体内から出ている菌です。
 一般の乳牛たちは、もともと乳がたくさん出る動物なのではなく、人間が多量の乳が出るよう改良して作り出した生き物です。赤ちゃんに飲ませる乳の十数倍も出てしまいます。母親は自分が吸収した栄養を第一優先で乳に持っていき、余った栄養を自分の回復に使います。つまり牛たちは昔のように草だけでは生きられない、常に栄養不足の動物にされているのです。大量の穀類を給与されているのもそのためです。
 ですから牛たちは健康を損ね、雑菌に感染して乳房に炎症を起こし、牛乳中の菌数を減らすことは不可能と言われる状況になっています。
 想いやりファームでは、牛たちに人間の都合(経済性・作業性・イメージ)を一切押し付けないで、人間の方が牛に合わせ(牛を追わない)、少しずつ本来の牛の姿に戻す努力を続けながら、今の牛たちにとってのベストを追求し続けています。量を出すように品種改良され、穀物を必要とする牛のままでは、放牧し草中心の生活をさせるのは過酷となります。そのため、草を健康的に食べられる状態に戻せるよう、18年5~8代かけて牛を適応させてきました。その結果として、母親が健康であるからこそ健康な乳(生のままでも飲める乳)が出ているのです。
 想いやりファームは菌を殺す方法ではなく、牛たちが菌と共存できる、菌に負けないスタイルです。そのためには免疫力が落ちるようなストレスはかけず、牛たちが幸せであることを最優先しています。牛たちは不満がないから鳴かないし、獣医も来たことがないくらい健康です。

●夢をかなえた酪農家
  長谷川竹彦さんは北海道育ちではなく、実は神戸市の出身です。畜産系の大学へ進学し、実習で北海道酪農に出合い、すっかりその魅力にとりつかれたといいます。卒業後、北海道での本格的な実習に入りました。
 当初は夢と希望にあふれていましたが、現実はけっして甘いものではなく、急速に進む機械化などの酪農現場の荒廃、1年ももたずに過労で入院。3ヶ月を越える入院のあと、酪農はあきらめ12年間のサラリーマン生活を送りました。30才を過ぎて改めて自らの人生を問う中で、「自分たちには牛しかいない!もう一度精一杯やりたいことをやろう」と再度、新規就農の道を目指されたのです。
 再チャレンジは周到な準備をし、まずは酪農ヘルパーから。多くの酪農家から学び、4年目の37才・1991年には離農跡地を取得して、念願の農家としてゼロからのスタートを始めることができました。さらに牛や土をより自然に戻し、現在の牧場の姿になるまで、実に20年の歳月を費やされてきました。
 オルターへのご紹介はフードコーディネーターの高井瑞枝さんからと長谷川さんの妹さんからです。妹さんの萩原浩子さんは熱心なオルターの会員です。

想いやりファームの無殺菌特別牛乳「想いやり生乳」
■飼い方
  牧草地面積28ha。経産牛30頭(搾乳25頭)、育成25頭。1頭1頭名前で呼ばれており、牛たちを家族としてそれぞれの個性を尊重する姿勢は徹底しています。夏季昼夜放牧ですが、暑すぎたり風雨が激しい時は、牛たちの要望に従って牛舎にも入れます(牛舎内で自由行動)。牛舎内のベッドは雑菌が繁殖しづらい砂を敷料にし、朝夕清潔で寝やすいベッドメイクに大変な手間をかけています。
 牛舎は壁がなく、屋根も半分しかない、限りなく外に近くてしかも快適なスタイルです。みんながいつでも自由に飲める水槽や、暑さを和らげる扇風機をいち早く取り入れた牧場でもあります。
 「手をかけず目をかける」「命にマニュアルはない」をモットーにしており、スタッフ(ほとんど女性)は牛たちの様子をひたすら観察すること、牛たちにとってどうするのが一番いいかを常に愛情をもった目で模索しています。

■エサ
  大部分はイネ科牧草のリードキャナリーグラス(繊維質が多く繁殖力の強い草です)。一部オーチャードが残っています。
新規参入(脱サラ)のため、痛んだ土を戻すのに多くの年数がかかりましたが、現在は土壌改良剤含め何も投入しなくてもよくなりました。堆肥も投入していません。放牧地での牛たちの糞は数日で分解され土に戻ります。
 冬季用のグラスサイレージは、基本的に年3回刈り取り、乾草に近いサイレージにしています(もちろん乳酸菌も自然のままのものです)。
 草だけでは不足する栄養分に関しては、地元産のビートパルプ粕(ビートには農薬・化学肥料使用あり)で補っており、市販の配合飼料や動物性飼料抗生物質等は一切与えていません。ミネラル補給も塩のみで、将来的には完全に草のみで生きられる姿を目指しています。
 子牛は生乳を与えており、粉ミルクは一切使用していません。

■製造工程
<搾乳>
  衛生的なミルキングパーラーで搾乳をおこないますが、パーラーに入るのも搾る手順も牛たちに合わせます。決して急ぎません。搾乳は牛たちにとっては授乳と考えており、乳を触られる牛たちの気持ちを最優先に考えています。リラックスした牛たちは目を瞑って反芻しています(搾乳中にはほとんど糞をしません)。
 乳頭の清拭には通常のように次亜塩素酸ソーダを使わず、200倍に薄めたヨード液を使うというこだわりようです。搾乳後の牛たちは乳頭口が開いているので、すぐに寝て雑菌が入らないよう、まずは牛舎で草を食べて乳頭口が閉じた頃に快適なベッドで寝る(または放牧に出る)ようにしています。
 ミルキングラインとバルククーラー(貯乳タンク)は、アルカリ洗剤・酸性洗剤を使って毎日自動洗浄しています。

<充填>
  バルククーラーで一旦冷却された乳は、クリーム粒子に損傷を与えるようなモーターを使わず、配管を通して自然落下で充填機に流れます。熱だけではなく圧力も一切かけないよう配慮してあります。工場は充填室・洗ビン室とも無菌室になっており、充填前に蒸気殺菌・塩素水冷却という工程を経ないでもいい(塩素水の混入を防ぐ)ようにも工夫しています。「無菌」のために不適切な薬品処理をするようなことはありません。
 充填機は毎日分解洗浄、小さなパッキンまですべて手洗いです。洗浄後殺菌剤は使わず、熱湯殺菌(80℃)と滅菌保管庫(90℃60分)での管理をしています。工場内ATPは10以下という保健所も絶句するくらい驚異的な数値(衛生度を測る指標で菌数ではない、1000以下で良好、200以下ならほぼ完璧)を維持しています。
 製品は1本1本目視チェックをするとともに、毎日菌検査(総菌数・大腸菌群)をし、検査結果が出る前に販売することはありません。また保存テストも毎日行っており、1ヵ月後まで製品の状態をチェックしています。

■空ビン回収
  以前は空ビンをリユース(再利用)していましたが、洗浄に使う厖大なお湯や洗剤の量・輸送等を考えると決して環境に優しくないと考え、リユースをやめています。家庭でのガラスリサイクルをお願いします。

■飲み方
「想いやり生乳」は悪い菌が一切入っておらず、逆に酵素・乳酸菌が活きていますので、ヨーグルト化することはあっても腐敗することはありません。もちろん温度管理や開封後の管理には慎重を期してください。表示上の賞味期限は8日間でついておりますが、決して飲んではいけない期限ではありません。嫌な臭いや苦味・ピリピリ感がない限りいつまでも飲めます。ただし生きている乳ですので変化していきます(自然な乳ですので変化の仕方も一定ではありません)。分離や発酵が少しずつ進みますので、新しいものほどあっさりと飲めます。
 冷たい乳が苦手な方は40℃以上にならないように温めてお飲みください。クリームが分離して浮きますが、よく振って飲んでいただくか、スプーンですくって生クリームとして使っていただくこともできます。

ー文責 西川栄郎(オルター代表)ー

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