よい米で造ったおいしい酒

2008年4月3週号

 

霜里農場の無農薬米で、地元の蔵元・晴雲酒造が醸した純米吟醸酒「おがわの自然酒」。

●無農薬米での酒造り

 埼玉県小川町は、秩父山塊を源とする槻川の良質な水が育てた「関東灘」と呼ばれる酒どころです。その小川町にある蔵元・晴雲酒造(株)中山雅義社長が、地元の有機農家である霜里農場の金子美登さんらの無農薬米を使って酒造りをしています。純米吟醸酒「おがわの自然酒」です。
 晴雲酒造が地元の無農薬米で酒造りを目指し、役場の人から紹介を受けた霜里農場に頼んだところ、二つ返事で引き受けてもらえたというのがこの酒造りの始まりでした。

●米の生産者は霜里農場の金子さん

 霜里農場の金子美登さんは、2006年12月に国会で成立した有機農業推進法を実のあるものにするために生産者の受皿作りとして活動している「全国有機農業団体協議会」の代表を務め、また農水省の「全国有機農業推進委員会」の委員をなさっています。
 私が徳島時代、農家の自立・消費者と無農薬農家の提携の取り組みとして「複合自給農業」という考え(カタログ2007年11月5週号でご紹介)にたどりついた時に、金子さんはすでに関東でその複合自給を実践されていて、たいへん感動したことを憶えています。
 金子さんの霜里農場はたいへん素晴らしい農場です。美しい槻川の流れに囲まれた畑1.5ha、山林1.7haで乳牛3頭、鶏200羽、合鴨100羽を飼い、旬ごとの多様な野菜が畝ごとに見事に植えられています。ほかに水田1.5haで酒米などの米を作っています。炭焼き、メタンガス発生装置、太陽光パネルなどでエネルギーの自給もめざしています。見学に訪れる農水省の役人も、日本の農業はいかにすれば再生し得るのかというモデルを目の当たりに見せつけられている農場です。
 金子さんは農林水産省の農業者大学校の第一期生として1971年卒業後、卒業前年に始まった減反政策やイタイイタイ病、水俣病といった公害問題などの時代背景の中で、「これからの農業は安全でおいしく、栄養価のあるものをつくり、豊かに自給していくことが大切ではないか」と考え、徹底した有機農業を始めました。消費者とはその自給の延長線上でセット野菜での提携をしてきました。国内外から多勢の研修生を受け入れ、小川町有機農業生産グループ代表、小川町議会議員としても活躍しています。
 今では小川町には仲間の有機農家26戸があり、小川町の全農家の4%に達しています。ちなみに全国の農家のうち有機農家が占める割合は0.16%に過ぎません。

●米がよければ、酒もおいしくなる

 「おがわの自然酒」は、2007年に滋賀県で開催された「第二回 農を変えたい!全国集会」の場で金子さんから紹介されました。飲ませていただいたところたいへんおいしく、どんな風に造っているのか興味をもって、蔵元・晴雲酒造に行ってきました。
 良い原料を使わなければ、良い酒を造ることはできません」と語る蔵元は、すべての米を自社精米し、それぞれの良さを一番引き出す造りを行っていました。米そのもののおいしさと、それを活かしきる造りの技。ふたつが相まって、「純米吟醸 おがわの自然酒」が醸されているのです。

晴雲酒造の「純米吟醸 おがわの自然酒」
●原料…特別栽培米(農薬不使用)
 霜里農場の金子美登さんの月の光、山田充宏さんのコシヒカリ、河村岳志さんの月の光、田下隆一さんのどんとこい、桑原衛さんのキヌヒカリ(堆肥は枝、葉、米糠、自家製鶏糞)と、上和田有機米生産組合の須藤直英さんのコシヒカリ。上和田有機米生産組合は高畠有機農業提携センターの仲間です。

●製造方法…純米吟醸、精米歩合60%、アルコール度15~16%
 醸造方法は一般的な日本酒の製造工程です。?精米?洗米?蒸す?こうじ?三段仕込み?上槽?濾過(ミクロフィルター、活性炭)。生酒はそのまま瓶詰めします。火入れ酒は火入れ殺菌を施して貯蔵し、出荷前に二度目の火入れ殺菌を施して瓶詰めします。

●特徴
 限定品の生酒は、爽やかに香るフルーティーなタイプ。ほんのり甘くフレッシュでジューシーです。定番品の火入れ酒は、のびのびとした味の幅のある濃醇な風味、やや辛口です。届いてすぐ飲むには生酒を、しばらく保管する場合は火入れ酒をおすすめします。

市販のお酒の問題点
 酒の品質は、米と水の善し悪し、その他、気候、蔵の気風、杜氏の技術などで決まります。仕込みの時の水が良いものに越したことはありません。
 米は田んぼの状態、その品種、米質と精白度が大切です。下手をすると飲みづらい酒になることがあります。また全く同じように造っているのにタンクによっても出来不出来が違ってくることもあります。
 酒造米のほとんどは農薬を使用している慣行栽培米です。有機農業のお米を使えばおいしくなるかというと、そういう米は蛋白質含有率が高く、雑味が出やすいので、米の質を良く分かって一層シビアに造る必要があります。
 約30年前、日本消費者連盟のパンフレット「ほんもののお酒が飲みたい」などが火付け役になって、全国で地酒ブームが起こり、以来、それまで大手メーカーへ桶売りをしていた小さなメーカーが自らの誇りを持って特徴のある地酒を造り、消費者にとっても、質のよい純米酒が飲めるようになってきました。少なくとも米だけを原料として添加物を使わない純米酒なら、安全性において大きな問題点はありません。
 しかし、今でも大手酒造のお酒のように、食品添加物、例えば糖類、酸味料を添加しているものがあります。かつてのように劇薬のサリチル酸配合のようなひどいものはなくなっていると思いますが、安売りのお酒では、米糠や穀物から作った醸造用アルコールを添加しているもの、吟醸酒でもカプロン酸を極少量配合して高級に見せかけているもの、まずい酒をごまかすために活性炭濾過をし過ぎて炭香がついたまずい酒もあります。
 紙パックに入った酒は容器による紙パック臭が問題となります。また酒販店の管理が悪ければ、本来は美酒であっても駄酒になってしまうことも起こります。まずい日本酒が日本酒離れを起こし、業界自ら首をしめてきたのが歴史なのです。

―文責 西川栄郎(オルター代表)―

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