今なお「むしろ麹」を大切にした醤油造り

2008年12月1週号

 

頑ななまでに伝統手法にこだわった、まさに国宝級の醤油。

 

●むしろ麹法を守る伝統の蔵
 香川県の東端、東かがわ市引田町にある株式会社かめびしは、国産大豆(一部有機)、国産小麦(一部有機)、天日塩など安全な原料にこだわった醤油造りをしています。また、現在では他のメーカーではやめてしまった伝統手法「むしろ麹法」を今でも頑なまでに守っています。醤油造りでむしろ麹が残っているのは、国内でもここだけになっていると思います。
 1960年代に醤油業界の協業化、合理化が急激に進み、次々と麹作りをやめたり機械を導入していく中で、かめびしさんもそれに追随すべきか否かの岐路に立たされたことがあります。ひとまず半自動型の製麹装置を取り入れてみましたが、どうしても納得できる醤油の味にならず、結局昔のやり方に立ち返って、自分たちの納得できる本物の醤油造りを続けることにされたのです。
 蔵は、昔の武家屋敷を代々改造し、大切に修理してきたものです。うかつに風の流れひとつ変化させると、醤油造りに最も大切な家付きの微生物に影響を与えてしまうからです。仕込みには杉の大樽が今なお使われています。杉樽に代々棲みついている微生物が、醤油に独特の味わいを醸し出しています。
 かめびし醤油はこの杉樽の中で「長期熟成」しています。とくに「三年醸造醤油」は、二年物の生醤油汁の中に原料を再仕込みし、さらに3年以上熟成しています。また、代々の当主が毎年1桶ずつ親しい友人などへのプレゼント用として造っていた「古醤油 十歳造」などは、15年、20年に達する醤油もあり、まさに絶品です。

●女性パワーが活躍。洋風料理に合います
 かめびしさんの創業は江戸期1753年、250年以上になります。今年10月に17代目を継いだ岡田佳苗社長は、上智大学からアメリカへの交換留学中に外国人の友人から家業の大切さに気づかされ、卒業後3年勤めた外務省の外郭団体「国際交流基金」をやめて家業を継がれています。
 かめびしさんでは何人もの女性が製造にも携わっています。そのため、もともと男の力仕事だった醤油造り工程の随所に、女性でも製造に参加できるよう工夫を重ねています。女性パワーが伝統醤油を守っているのです。
 蔵、道具、手技、どれをとっても醤油業界が失った大切なものを今に伝える、まさに国宝級の醤油といえます。しかし意外なことに、日本の伝統的手法で造られた醤油なのに、オルターの顧問・CC'Cookingの山本朝子先生によれば「洋風料理にたいへんよく合う」醤油なのです。
 かめびしさんとの出会いは、私の徳島時代、大地を守る会時代の徳江愉明さんやポケットくらぶの亡くなったご主人、萩原孝一さんがかめびしさん訪問時に私の家に寄ったことからでした。

●JAS規格返上に拍手を
 この国内最高峰といえるかめびし醤油に対して、農林水産省は2004年のJAS醤油規格変更をたてに、こともあろうにJASの格付け基準違反とし、JASマーク表示をやめるよう命令しました。その理由は、「醤油の原料に使われている『にがり』が食品添加物の規格にない」「減塩醤油は再仕込み醤油なので、生揚げのみの使用に限定している規格に反している」というものでした。
 大手メーカのようににがり分を含まないイオン交換塩では、おいしい醤油はできません。しかし、にがり分を含む再生塩は高コストになるので、かめびしさんでは輸入天日塩ににがりを併用するという工夫をしています。これは極めて合理的であり、にがりに含まれる海洋ミネラルは人の健康にとっても重要な役割を果たすもので、にがり分の多い塩を使うほうが伝統技法にも合致するものです。また、塩水の代わりに醤油を使う再仕込み醤油は、むしろ高級なもので、これを理由にJAS法違反とする判断は全く不当です。
 大手メーカと癒着したJAS規格の現実は、本物の醤油という概念から逸脱していると言わざるを得ません。オルターとして、かめびしさんの「醤油造りの本道から外れるJAS規格なら返上する」という判断を、熱烈に支持いたします。

かめびしの醤油


「こいくち醤油」
●原料
 国産丸大豆…みちのく生産組合の「ナンブシロメ」(岩手県)、杉原産業
 国産小麦…JA香川の「さぬきの夢」(香川県産)、みちのく有機共同農場の有機小麦「ナンブ」(岩手県産)、杉原産業の「シラネ小麦」(長野県産)
 塩水…メキシコ天日塩(メキシコ産)、国産にがり、水(浄水器)
●製造工程
 ①大豆を洗浄、浸漬(一晩)、蒸煮 ②小麦を炒り釜にて炒り、割砕機で割砕 ③大豆と小麦を混合し、種麹を盛り込む(むしろ麹4日間)。むしろ麹はのびのよい風味の麹に仕上がります。むしろ1枚ごとに2~3cmの高さに、むしろの棚は14段。1日目に盛り込み、泊まり、2時間ごとに温度管理。2日目に手入れ、泊まり、2時間ごとに温度管理。3日目に温度管理。4日目に出麹。手入れは、むしろと簀(す)から麹をたたき落としては混ぜ、もう一度のせるという大変手間のかかる作業です。 ④むしろ麹に調整塩水(食塩と水)を加え、もろみに ⑤もろみを木樽で発酵・熟成(2年3ヶ月以上)。完全な天然醸造です。撹拌は仕込み当初はほぼ毎日、1年経つと2~3週間に1回、5~10年経つと数カ月に1回。 ⑥水圧機で搾り、生揚げ醤油に。6~7割しか搾れません。 ⑦おり引き(1ヶ月) ⑧火入れ(加熱殺菌)70℃で90分(一般より低温で短時間)。酵母を失活させます。 ⑨おり引き(2週間) ⑩混合、仕上がりロットの違う醤油を一定の品質にするため。 ⑪検査 ⑫濾過(セライト(珪藻土)使用) ⑬瓶前殺菌。瞬間殺菌装置で68℃30秒。⑭瓶詰
●特徴・使い方
 ふくらみのあるしっかりとした味と色の濃さ。一般煮炊き用、だし、つゆ、刺身に最適。

「三年醸造醤油(再仕込み)」
●原料 「こいくち醤油」と同じ
●製造工程
 盛り込み塩水として「二年醸造の醤油生汁」と「調整塩水」で仕込んだ再仕込み醤油。3年間杉樽で発酵・熟成。最高に贅沢な醤油。
●特徴・使い方
 粘り気と独特の酸味が特徴。刺身はもちろん、冷や奴、ステーキ、穴子、鰻、餅、煮物の仕上げなどに。

「うすくち醤油」
●原料 「こいくち醤油」と同じ
●製造工程
 「こいくち醤油」と違うのは、 ?原料大豆と原料小麦に加える塩水の濃度と量を工夫して、濃い色になるのを防ぐ。 ?塩分は高め。 ?熟成期間は1年6ヶ月以上。発酵スピードは抑えている。
●特徴・使い方
 市販の淡口醤油のような「濃口醤油を塩水で薄め、化学調味料やだしや防腐剤を入れたもの」ではなく、淡口仕込みをしています。吸い物、そうめんつゆ、色を濃くしたくない煮物、炒飯に。

「減塩醤油」
●原料
 国産有機無農薬丸大豆…(株)共同商事(岩手県産) 国産無農薬丸大豆…(株)大地(宮城県産)
 国産小麦…JA香川 塩水…「こいくち醤油」と同じ
●製造方法
 盛り込み塩水として「二年醸造の醤油生汁」と「低塩の調整塩水」で、当初から塩分を下げて仕込む再仕込み醤油。3年以上発酵・熟成。
●特徴・使い方
 市販のような「透析膜で塩分を除去して旨味成分まで取り除かれた減塩醤油」ではなく、最初から低塩仕込みです。塩分の多いしらす干し、干物、漬物に最適、ユズなど柑橘類との相性抜群。塩分を気にする病人家庭などで煮炊き用として。

「生しょうゆ」
 3年以上の天然醸造もろみを搾っただけで火入れをしていません。酵母菌、乳酸菌が生きている究極の醤油。冷蔵保管が必要です。刺身の生臭さ(オルターではそのような鮮度落ちの魚はありませんが)を消せます。すき焼き、鍋物に、醤油辛くならず軽く食べられます。

「三年熟成もろみ、五年熟成もろみ」
 3年または5年熟成のもろみに火入れしただけのもの。独特の強い香りと風味がありますので、少量ずつお使いください。マヨネーズや酢と合わせたり、味噌漬に少量混ぜて風味付けに、照焼きやステーキのたれなどに。

「古醤油 十歳造」
 酸味とともに奥の深い旨味の10年物。そのままではあまり強い香りは感じませんが、いったん熱を加えると芳香があふれます。刺身、お寿司、つけ焼きのたれに。

市販の醤油の問題点
2008年2月5週号をご参照下さい。なお、濃口醤油のJAS規格が認めている食品添加物は以下の通りです。

①甘味料…カンゾウ抽出物、グリチルリチン酸二ナトリウム、サッカリンナトリウム及びステビア抽出物
②着色料…カラメルⅠ、カラメルⅢ及びカラメルⅣのうち1種
③保存料…安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル及びパラオキシ安息香酸ブチルのうち3種以下
④増粘安定剤…キサンタンガム、グァーガム及びデキストリンのうち2種以下
⑤酸化防止剤…L-アスコルビン酸ナトリウム
⑥酸味料…クエン酸、酢酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸及びDL-リンゴ酸ナトリウムのうち3種以下
⑦調味料…(1)アミノ酸:DL-アラニン、グリシン及びL-グルタミン酸ナトリウム (2)核酸:5’-イノシン酸二ナトリウム、5’-グアニル酸二ナトリウム及び5’-リボヌクレオチド二ナトリウムのうち2種以下 (3)有機酸:クエン酸三ナトリウム、コハク酸、コハク酸二ナトリウム及びフマル酸一ナトリウムのうち2種以下 (4)無機塩:塩化カリウム
⑧製造用剤…D-ソルビトール及びチアミンラウリル硫酸塩
⑨日持向上剤…アルコール

―文責 西川栄郎(オルター代表)―

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